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深夜のネオンを従えてロカはわたしの前に現れた。 「ね、ちょっとつきあってよ」 探るような、釣りあがった狐の目。色素の薄いブラウンの瞳。目じりを強調する黒のアイラインと、翳りを帯びた長い睫毛。つんととがった顎をこころもち持ち上げて、わたしを見下ろす。 彼女の気まぐれはいつものことだ。街に住みついた猫のようにふらっと、音もなくやってくる。わたしとロカの関係を一言で表すなら、「知り合いの知り合い」といったところだろうか。始まりもそんなものだった。友達の友達、に表示されたロカの写真、その画面の向こう側をちらりと盗み見見るような目線にとらえられたのが最初だ。わたしはその場でスマホの画面を閉じたけれど、まるで、見透かしたかのように彼女から友達申請が来たのはその数日後だったと思う。 「どこへ?」 「ちょっとそこまで」 「――、うん」 追求することもなくわたしは傍にいた友人たちに片手を挙げて「じゃ、わたしここで」と告げる。女の子たちは少し不服そうな演技をしたあと、笑顔で手を振った。残りの男の子たちはあからさまに残念がり、一人はちらりと視線をよこして終わる。眠らない街の煌めくストリート。夜通し消えることのない光の中だ。わたし一人いなくとも目など簡単に眩んで気にも留めなくなるだろう。 ロカはわたしの手首を無造作につかんで歩き出す。わたしよりすこし背が高いけれど、わたしよりよほど細い指だ。指だけじゃない、身体も、髪の毛も、ロカを形作るものは薄く、軽く、それでいて獣のように力に満ちて奔放だった。その証拠に歩く速さはわたしよりよほど早く、およそ急ぐという概念のないわたしは少しもつれるように彼女の背中を追いかけている。 「なにがあったか訊かないの?」 振り向かないままのロカの声が届く。わたしは笑った。 「なにか、なんて、わたしのところに来た時点であるに決まってるんでしょ」 「それもそうだね」 けらけらと笑ったのち、タクシー、とロカが片手を挙げた。通りの向こうからすうっとやってきた車がわたしたちの前に留まり、ドアが開く。 「――海まで」